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システム工学から見る生産・安全性・コンポーネントの原理

足立研セミナー:「こうのとり」の制御系安全設計の実際とその後の取り組み - YouTube

 

この記事は、このyoutubeの動画に大きく依存しています。

 この論考の目的は、先の記事にほのめかしていますが「私たちがより自由かつ豊になるにはどうしたらいいのか」ということです。

 この点についてまず着目したいのは、道具です。特に機械は産業革命で私たちの生産力は大きく向上しました。生産力を高め、物質的な供給が満たされていることは、豊かさの一つの条件です。これによって、穀物生産に従事しなければならない人を減らせるので、余剰が生じて、さらに効率的な道具やほかの農産物の生産、サービスの提供が可能になります。

ということで、ここで仮説を一つ置きます。

S仮説1:人は道具によって、生産性を向上させ、余剰時間を手に入れることができる

S系1:さらに工程を切り分け、自動化を行うことでより生産性を向上させた。

 つぎに、人工物の生産ということに着目し、その生産力がどのようにして向上するのかをまず考察します。

 道具は、必ず要素の組み合わせと加工から成立します。桑や鍬は、鉄をある形に成形するとともに、木の棒を取り付けることでできます。少し効率化すれば、手押し車付きの耕作機になります。エンジンまでつけば、トラクターになります。衣類に目を向ければ、はじめは素手で織っていたり、単純な毛皮でした。これが、針と糸でよりきめ細かくかつ頑丈につぎはぎできるようになり、無駄がへりました。動力をつければ、ミシンになります。モーターがつけば電動ミシンになります。電動ミシンになれば、素手の何十倍も衣類を作り上げることができるでしょう。移動についても、はじめは徒歩だけでしたが、馬に乗ることで、移動速度を高めることができるようになりました。さらに、馬が引っ張れる馬車によって、移動人数を増やすことができ、エンジンがつけることで、自動車が誕生しました。自動車の誕生によって、馬よりも安くなったため、多くの人が高度な移動手段を手に入れることができました。

  このように、機械は明らかに人の能力を向上させることに成功しました。この機械をつくる機械も誕生するようになりました。

つまりは、生産力の向上にはさらに以下が伴っていると考えることができます。

S仮説2、より多くの部品が組み合わさって、全体として機能するものを生産する必要がでてきた

S仮説3、全体としてうまく機能するために、より多くの部品の保証を取る必要が必要になった

S仮説4、保証と生産のプロセスを高速に行うため、専門分業が発達した

S仮説2を深堀します。

(より詳細な議論は自分が修士の時に書いた論考をご覧ください。以下では、ここの思考過程をベースに論を展開しますが、これ自体は記事にはしません。また当時の設計論は安全要求の議論を欠いていたので、それを加えて再考します。なお、どのような冗長系をどの程度とればよいのかという点については、対象外とします。システム安全の専門家の方にうかがいたいです。)

設計はまず望む対象が備えるべき機能の要求を行い、機能要求が済んだのち、それを可能な範囲で数値的な要求にします。

数値的な要求が全体として決まれば、その後、それを部分に展開します。この部分一つ一つが要素です。全体を要素分割する行為を構造(アーキテクチャ)設計と呼びます。

このアーキテクチャ設計は、生産にかかる費用、サブ機能の設計の容易さ、最終的な動作の安定性・正常性を取りやすいことなどを加味して分割されます。(安全ではない状態とは、想定外の動作をすることです。)

 設計の生産性が上がるとは、すなわち設計指標が定まり、その数値基準が判明し、要素の組み合わせ方が分かるということです。(なお、設計と製造は実際にはインタラクティブですし、製造の習熟効果や製造自体の高度化で設計の制約条件が変わることがあるので、常に一定ではありませんが、一度製品として完成したものを変えることはないので、これで十分とおもわれます)近年では、シミュレーションの精度も上がり、設計指標が決まればほとんど最適化可能となっています。(あとは形状という連続ゆえに無限である変数ぐらいでしょうか)

 余談ですが、そのため、むしろ機能設計をどのようにするかという点が、価値の源泉になり、重要になってきている場面も多く、このあたりが「デザイン」とか「UI」とか言われています。さらに、最近では「参加性」による消費者巻き込みがたなども出てきており、価値空間上での設計が重要視される傾向があります。(相互関連性は上記論考の図1.8を参照ください)家電や半導体における日本企業の敗北は、機能や価値指標の転換を認知できなかったこととも言われています。(家電は機能をシンプルにしてコストを抑えること。半導体は高性能かつ高品質ではなく、露光工程を自動化してコストを抑えること。半導体については日本「半導体」敗戦に詳細あり)

 つぎに、S仮説3です。実際に設計したものが、どのような想定外でどのように異常モードにはいるかわかりません。そのため、異常モードを起こさないための試験と異常モードを起こさないための、冗長システムが組まれます。この保証はやればやるほどコストが嵩みます。そのため、状況に合わせた必要最低限に抑えることと加えてリコールなど、社会的な制裁によって埋め合わせをします。(このあたりは責任論、保険と絡んできます。)そのため、こちらについては、社会的な価値の方がより反映されます。(中国では、人の命が軽いから、シンチェンでイノベーションが起きやすいなど)安定状態を担保できないことと身体的危険への責任の重みが、ここのコストを決めます。UIやUXは、ユーザーの使用が必要な部分でもあるため、早めに公開したほうがフィードバックを得やすいです。そのため、プロトタイプ論が近年はやっているのでしょう。

 この点についても、日本はモノづくり発想が強く、ソフトウェアも品質にこだわりすぎたため、敗北したともいわれています。(もちろん、プログラミングが英語発送なこともありそうですが)近年のマイクロソフトは最初に無料で配ることで、バグだしをしているともいわれています。もちろん、医薬品などは副作用が身体的影響をきたす場合もあるので、安全性の確保は必須ですし、だからこそ開発コストがかかるのでしょう。

 最後にS仮説4です。これは、人間の情報処理限界によって要請されます。人間の限界は、塩沢先生のものを引用します。これは以下の3つの区分があるといわれています。(別添の論考の思考過程が、人間の特性に対する仮定1とするとこれは仮定の2にあたります)

1、視野の限界

2、合理性(計算速度)の限界

3、働きかけの限界

複雑さの帰結―複雑系経済学試論より)

視野の限界は、人ひとりの知識と興味が世界の全現象に比べれば、局所的ということです。人は昔から、この問題にたいして、必要な情報を分類して対処します。要は、興味の範囲について、特徴量を抽出しています。この部分は検索システムが現代ではやや緩和してくれています。

合理性の限界は、問題を最適化問題として定式化できても、それを解けるとは限らないということです。人は、この部分に対して、ルールと満足水準対処しています。ルールとは、Aの場合はBをすると決めることです。これは、プログラムとしてみることができます。今は、プログラムによってルールを自動化することが可能になり、計算もコンピュータサイエンスの発達で多くの問題が解けるようになりました。満足水準とは、前よりもいいということです。(これは、科学のベイズ主義ともつながります。一方、アブダクションは、組み合わせ最適問題の探索とみることができます。)

働きかけの限界は、問題が解けても、他人に作用させるのに限界があるということです。人は、この部分に対して、上2つを一部の人に託し、他多数を実行部隊とすることで、緩和を行ってきました。この部分は、情報の伝播に限り、検索によって緩和はされました。また、機械・ロボットはこの部分の限界を緩和していると言えます。

さて、これらがゆえに、人は専門分業するとともに、コミュニケーションとり、複雑な問題を組織として解決しています。これらを効率化するには、前提としての教育システムと人事異動体系があります。一組織内では、あまり確立された手法はないというのが、個人的な所感です。なお、専門分化による弊害は、多くの場で指摘されており、専門分化によって、専門外の指標が分からなくなることによって、人事転換の困難さを伴うようになるとともに、コミュニケーション上の支障がでたり、評価の対立が起きたりしています。人事異動はそれ以外の要素でも決まるため、より総合的な判断としてなされているということはできるかもしれません。なお、次の組織論に最も通じる部分ですが、製品として満たすべき指標というのは、あまり変わらないですが、安全性をどの程度重要視するのかなどは各組織によって変わってくる点と思われます。ここには、何を重視するのかという点で幾分政治性が介入します。

 一方で、S仮説4については、経済という視点でみれば、金銭的な交換によって、効率化しているとみることができます。これは今後の論考で明記していきます。

 S仮説3とS仮説4については、データベースおよび検索システムによって、効率化が図られています。これは、こういった知識がほとんど文書によってやり取りされるからです。S仮説3については、数値基準できまるものは、国が規制をデータべース化すれば、ソフトウェアで対処可能になり、最適設計がより円滑になることでしょう。

 以上をまとめます。

人は、道具によって生産力を高めていきましたが、また工程を一部自動化することでさらに生産力を向上させました。一方でこれらは、高度な設計(物自体のみならずプロセスも含めて)を必要するようになりました。高度に設計されたシステムを安定的に異常を回避しながら運用するために、設計時点での安全性検証を要素毎に行う(安全性担保のために統計などが使用されます)とともに、システムとして動作することを担保するように、冗長系を取るようになりました。これとともに、専門分化をすることで、より生産力を向上させました。

 つまり、「生産力を向上させる」とは、

P1、安定動作する複雑なシステムをくみ上げる能力

P2、1を可能な限り自動化し、少ない人数で実現すること

P3、1を可能な限り短期間で行う

ということです。

そして、経済における人の駆動という点においては、

E1、複雑なシステムの構築は人数と期間を増加させる

E2、人間の数が同じであれば、システム構築に人でがかかることは、その他供給を抑止する

社会的な対処として、

O1,組織を形成する

O2,専門分業を行う

O3,ルールを制定する

 といえます。

最後に余談ですが、設計指標とそのパラメータを設定するという。「特徴抽出」の行為について、現在は人間しかできませんが、機械学習の進歩がこれらを可能にするのではないかという議論があり、これが「人工知能が人間を凌駕する」という議論の根幹ですが、今のところ、物理法則の特徴を自動で抽出したという研究成果はなさそうです。しかし、そこまで可能であれば、より効率化していくことでしょう。