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エマニュエル・トッドの「世界の多様性」を読んで

以下の本を読みました。

簡単に本書を紹介すると、ソ連崩壊やEU崩壊など、数々の政治経済的現象について予言を的中させてきたエマニュエル・トッド氏が、1983年に出版した「第3惑星」と1984年に出版した「世界の幼少期」という2部作をまとめて1999年に出版したものを日本語訳したものです。エマニュエルトッド氏は歴史人口学者なので、政治経済現象の予言は副業で、本来的にはこの本のような家族構造や人口統計指標から、政治イデオロギーや経済発展について説明を行っていくことが本業です。

 

世界の多様性 家族構造と近代性

世界の多様性 家族構造と近代性

 

 

 「第3惑星」は、家族構造とイデオロギー構造の広がりについて類似をがあることをしてきしたものであり、「世界の幼少期」は近代への発展がどのような家族構造によって変化があるかということになります。

 この本をまとめて言ってしまえば、ある文化圏が近代に移行する時、識字率の上昇、出生率・死亡率の低下がみられる。これが、文化圏に差異を持っているのは、家族構造がことなっているからであり、またこの家族構造の違いが、表出するイデオロギーと関係している。ということです。

 識字率出生率、死亡率における近代への移行の速さは、女性の地位(財産相続権の度合いや権威としての機能。日本であれば、母親が教育を行うこと、妻への相続がみとめられていること)に依存しているということです。

 つまり、

1、子どもをちゃんと教育して識字率が上がる

2-1、男性の場合は、万人の道徳的理解につながり、民主主義へ

2-2、女性の場合は、「正しい子供計画、子育て、衛生」による出生率や死亡率の低下

となるということです。

また、ドイツや日本が製造業的に強いのは、3世帯で住み、長男の相続という基本形態を持っているため、縦に続く行動規範の継承能力があるということです。そのため、労働における規律が守られやすく、生産性が高くなるとのことです。また、規範継承能力ゆえに、つよい官僚制も特徴とのことです。(ちなみに、これらの形態は社会民主主義イデオロギーになるようです)

 この書でもっとも疑問であったのは、「世界の幼少期」のまとめの部分で「国家は進歩の重要な要因として現れることは決してない」ということです。その根拠は、「国家によって決められる経済的な計画は、それが中期もしくは「長期」の産業計画であるかによって5年あるいは10年、最大限でも15年の期間を想定するにすぎない。・・・中略・・・成長の条件であり、教育のメカニズムの要素である識字化を説明するためには、世代から世代へと受け継がれてきたゆっくりとした、しかし不可逆な活性力を一般的な理論モデルに組みいれなければならない」ということです。定説から言えば、大規模土木工事にかかる集約を行うに際して、国家と言わずとも、ある程度大きな共同体が集権的に土木工事を行う必要があるのではないかと思います。しかし、それ自体が継続的に可能なメカニズム自体はイデオロギーであり、それは規範や資産分配の在り方であり、家族構造に依拠するということでしょう。

 今、日本において、私が問題と思うのは、IT産業です。ここ以外で、技術的高度さが日本において負けている分野はあまりないのではないでしょうか。

 IT産業はまさに、規範意識によって負けていると思われます。ITの良さは自由度を高めてくれることにあるからです。(別の問題は、実は言語にありますが)また、この規範意識アジャイル開発には向かないでしょう。

 工業化時代に成功した規範意識を、再生産しながら引きずってしまうのも、日本のイデオロギーなのかもしれません。