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日本人の勝算を読んで

最近話題になっている、「日本人の勝算」という本を読みまして、個人的に考えていること、気になっていることの観点とリンクがあったので、少し整理をしてみたいとおもいます。 

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

 

 この本のメインテーマは、これから人口減少と高齢化を抱える日本において、経済成長を保っていくため(豊かさを保っていく)には、生産性をあげるしかなく、そのために何が行えるかということを論じています。

 

基本的には、最低賃金の引き上げによって、以下を誘発させることを論じています。

1. 最低賃金層の消費の増進(これが、消費において最も強く効く)

2. 付随するその上の層の賃金の増進及び労働者の交渉力向上

3. 賃金増進に伴う、非効率な企業の淘汰(買収・合併・倒産など)

4. 買収・合併に伴う企業規模増進

5. それに伴う過当競争の防止と高付加価値競争の誘発

6. 高付加価値化による輸出競争力の増強

 

さらに、高付加価値化にむけては、以下を論じています。

1. 技術革新に付随したビジネスの切り替え

2. ビジネスの切り替えや新しい価値の発見に向けた、リカレント教育の推進

3. 海外市場を見据えた展開

 

この本の最大の面白さは、論文から数字や分析結果をきっちり引用し、論を構築している点ですが、今回は、組織構造の組み換え、IT投資と企業規模拡大という点について考察したいと思います。

 

考察というのは、以下、言説との整合性についてです。

<小企業化・分散化論>

1. 高付加価値を発見するためには、細かな探索と迅速な意思決定が必要であり、小さい企業体が向いている

2. ITシステムについて、SaaS化が進んだため、小さい企業でも、インフラとして大企業並のインフラを使うことができ、不利がなくなっている。

<大企業化論>

3. 大企業の方が、余剰と使用者の観点から、新しい技術への投資を行いやすく、技術革新によるビジネスの切り替えを行いやすい

4. 経済指標によると、大企業の方が平均給与が高い(≒生産性がたかい)。さらに、日本は企業規模の小さい企業が多く、そこに勤めているひとも多い。

5. 大企業の方が、労働の代替が効くので、労働参加率を向上させ、社会保障の担い手を増やすことができる。

 

1~2は、世の中で言われていると個人的に感じていることです。3~5は、この本で挙げられていたことです。

 

1-2については、大企業で「仕事ができないまま昇進してしまい、仕事を上から下に流すだけの人がおおい」とか、「結局派遣の人が一番できるようになっている」とか、「大企業が動くには、一定以上のマーケットが必要だ」といった話から、

 1. 技術革新に付随した、ビジネスの刷新を、日本の大企業がなかなか行えないのではないか。

2. 大企業は大規模な需要のみをマーケティングするため、萌芽的な需要を探査しないのではないか。

3. マーケットの前提条件がかわっているにも関わらず、気づけていない大企業の意思決定層が多い

という仮説が浮かび上がってきます。(これらは、複数の大企業が織り交ざった話なので、一概にこうということはできないのは承知ですが。)

そして、高付加価値ビジネスの探査とビジネスの組み換えにおいて、

1. いわゆるベンチャー企業が組織構造から刷新するほうが、日本では成立しやすい

2. 地方経済においても、身の丈に合った投資を逐次おこなえる

というであると考えられます。

 

一方で、本書で言われていることも、また事実かとおもいます。どこにどう違いがあるのでしょうか。どちらも、企業規模の大小ではなく、「経営力」であると思えます。

 

組織構造の組み換えについては、解雇規制と関係があると言われています。確かにその点もあるでしょうが、完全にコンサルおまかせモードなどの状態もみられるので、そういったところは、刷新能力がなくなっているということかと思います。このような状態の企業は、大小関係なく、最低賃金向上政策がとられると、経営不振に陥るでしょう。

よって、大企業だから硬直しているわけではないと言えそうです。

IT投資と企業規模拡大については、そのIT投資をするかどうかの判断ができることにあり、むしろ、事業戦略を引けていれば、必要なIT投資はなされ、結果として業績はあがり、企業規模は大きくなると考えられます。いくらSaaSになっていると言っても、カスタマイズには限界があるでしょう。

加えていえば、大企業が大きなマーケットしか見ないという点は、事業部においてはそのとおりと思いますが、もっと細かいレベルにおいては、そうではないだろうと思われます。ただし、最後の意思決定において、企業内で行えない可能性はあります。しかし、それは、起業一歩手前まで、大企業内でやり、自ら起業するという方法もあるでしょう。ここについては、投資環境の不備という点につきるとおもいます。ただし、新卒だけが、大企業に入りやすいという状況は、起業意欲の減衰につながる点であるとおもわれます。

 

以上より、総じて、経営力の問題であり、結果として、きちんと事業を見つけられる企業は、大きくなっていくという当たり前のことかとおもいます。

 

最後に、AI活用という観点からすこし。

私は、企業システムを考えた場合、AIは基本的には、「ルールでカバーできないちょっとした業務ルールも、繰り返されるものであれば、可能」といった程度と考えています。そのため、「管理機能を基本としつつ、補助的な機能としてAI」といった程度なのではないかとおもわれます。(なお、 組織設計が変わった場合の再設計は、どちらでも必要であり、AIは過去データに依存する点が懸念されるが、データのラベル付け替えである程度対応出来るものであれば、AIでも可能とおもわれます。)

一方、それを超えた部分ということで、AIにいだきがちな期待は、いわゆる「パーソナライズ」であるとおもわれます。しかし、大きな問題点として、「 パーソナライズできるほど、データ量がない」ということかと思います。(また、個人的には、部署異動があるので、「パーソナライズではなく、rolize」したいのではないかとおもいます。)さらに、他部署の情報閲覧禁止というセキュリティー観点からの障壁があり、大変厳しいとおもわれます。もう一点あげるとすると、各企業の慣習がことなるため、ユーザのモデリングが難しいこともあるでしょう。